令和4年度同窓会記念誌 希望の光 ~新しい世を照らせ~
16/148

14 『冴え冴えと 梢の秋に かかる月かも』  この原稿を書く数日前に県立美術館の特別展「シダネルとマルタン展~最後の印象派 色彩の詩情、光の神秘~」を閉館間際まで鑑賞しました。外に出るともう夕暮れ。秋の日は釣瓶落としと言いますから帰路を急ぎながら、ふと夕暮れの空を見上げると、清澄な光を湛えた月が静かに浮かんでいました。印象派の柔らかい色彩とは違う、穏やかで静謐な光が心の奥にまで差し込んでいるようでした。そんな時に浮かんだのが冒頭の拙句です。ちなみに「梢(こずえ)の秋」とは晩秋のこと。情景的な響きが心地よく、私の好きな言葉のひとつです。 ところで、本稿を書いている頃、素敵なことばに関する2つのニュースが飛び込んできました。ひとつ目は英国のエリザベス女王の話。The Oldieという雑誌が、顕著な活躍をした、高齢の人をたたえる賞The Oldie of the Year awardを女王に贈りたいが了解いただけるかという問い合わせの手紙を送ったところ、秘書官から受賞辞退の旨を伝える丁重な手紙が雑誌社に届いた。 “Her Majesty believes you are as old as you feel, as such The Queen does not believe she meets the relevant criteria to be able to accept, and hopes you will find a more worthy recipient. This message comes to you with Her Majesty’s warmest best wishes.” (自分が年老いているかは感じ方次第であり、その点から言うと、ご自身はこの賞を受けられる条件に合致しないと女王陛下は考えておられます。陛下はよりふさわしい受賞者が見つかることを願っていらっしゃいます。心を込めて貴社の発展を願う女王陛下のお気持ちがこのメッセージとともに届きますように。)  95歳になられたエリザベス女王が、遠回しの表現ながら、「私はまだまだ現役。あまり年寄り扱いしないでほしい」との強い意志と矜持とを示されたのだろうと思います。 ふたつ目は、2021年アメリカン・リーグのMVPに選ばれた大リーグの大谷翔平選手の話。MVP投票の数日前に帰国して高校時代の恩師と再会した時の様子を恩師はこう語っていました。「彼はまだ旅の途中じゃないか。MVPを意識したり、MVPを取って終わりだったりというのは、本人と会って話した時にみじんも感じなかった。次にどうするか、ということしか考えていない。常に誰かを目標にではなくて、敵は自分。常に前の日の自分を超えていく、という考え方で過ごしている。」 MVPに選ばれた後、国民栄誉賞授与の打診があったが、大谷選手は「まだ早いので辞退させていただきたい」との返事をしたとのこと。まさに恩師のおっしゃった通りの「前の日の自分越え精神」を貫いた大谷選手の見事な生き方だなあと感じ入ってしまいました。 エリザベス女王と大谷翔平選手のお二人に共通するのは、人生の中の「今」を、誠実に、精いっぱいの努力を傾注して生きておられる点ではないかと思います。年齢的に言うと、お二人の人生の中間点付近を生きている私は、お二人には遠く及びませんが、人生の中の「今」を誠実に生きる心をお二人から学び、日々を過ごしていこうと思っているところです。 表題のCARPE DIEM(カルぺ・ディエム:その日の花を摘め。今を享受せよ。)は、古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場するラテン語の語句ですが、英語ではSeize the Day(その日をつかめ。今を生きよ。)と訳されます。このことばが今の私の人生訓です。CARPE DIEM(その日の花を摘め) 6組担任 佐々木 宏夫

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る